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新しい仕事のカタチ
「継業」とは?

深刻化した後継者不足

近年の少子高齢化は社会の様々な分野に影響を及ぼしていますが、その一つに中小企業や個人事業主の後継者不足があります。

・親族、従業員が後を継いでくれない
・経営者が高齢で思うように働けず廃業を余儀無くされている
・ビジネスモデルの老朽化により存続が危うく継がせたくない
・設備が故障してしまったが、高齢によって設備投資が出来ず事業が続けられなくなる

様々な理由から廃業を余儀なくされている中小企業、個人事業主がたくさんいます。昔であれば、数人いる子供の中から一人や二人は親の事業を受け継ぐ意欲・能力の持ち主がいたものですが、現代ではそもそも継がせるべき子供がいなかったり、事業に不向きな場合もあります。労働の流動化も進み、長年勤務し続ける従業員も少ないため、現経営者が高齢や病気などの理由で席を退くとき、後継者になる人がいないというのがほとんどの中小企業の実情です。一次産業は個人事業主が多いため、そもそも従業員がおらず自分の代で終わりだと考えている事業主も多いでしょう。

一方で、企業の新陳代謝という意見もあります。本来潰れるべき会社は潰れなくてはいけない。これ以上延命させるべきではない。後継者が見つからないくらい魅力のない、稼げない仕事だと。しかし地方には光が当たらない有望で必要な仕事がたくさんあります。後継者不足だからと言って単純に判断すべきではありません。地域に根ざした伝統や技術が消滅することは社会的な喪失なのです。

後継者不足は社会問題

後継者問題に関する企業の実態調査(帝国データバンク)によると売上規模が1億円未満の企業では、後継者不在が36,421社、後継者不在率は76.6%にも上ります。

 

東京商工リサーチによると資産が負債を上回るにもかかわらず休廃業、解体した企業数は、負債超過で倒産した件数の3倍にも膨れ上がります。

データを見ると後継者不足が如何に深刻な事態なのかが伺えます。事業は黒字で、借り入れより資産も大きく、顧客もついている企業であっても後継者不足で廃業するのです。特に地方では高齢化に加え若者の流出が深刻なため、さらに事態は深刻です。このまま廃業が進むと中小企業がさらに減り、経済の活力も多様性も失われてしまいます。

「継業」という新しいカタチ

長年にわたり継がれてきた技術や、愛されてきたお店が失われるのはとても悲しくもったいないことです。そこで、第三者に事業を受け継いでもらうという「継業」が注目を集めています。継業は、既存の中小企業や個人事業主の「後継者」になり、有形・無形資産を受け継いで新しくビジネスを展開していくことが出来るのです。ゼロから起業するわけではなく、今まで培ってきた資源を引き継げるのが継業の大きな魅力です。

事業・生業、あるいはその経営基盤を継ぐこと。特に、親族や従業員といった一般的な後継者候補ではなく、接点のない第三者に引き継ぐこと。

地域に根付いた産業を後継者として引き継ぐので買収や合併を行うM&Aとはニュアンスが違います。明確な区別はありませんが、継業は中小企業や個人事業主の小規模経営を受け継ぐことを指す場合が多いようです。イメージしては農家、個人漁師、商店街の喫茶店や商店、町の文房具屋などが挙げられます。

継業

継業のメリット

魅力的な資産を活用する

最大のメリットは有形・無形資産を受け継げることです。有形資産とは土地、建物、設備。無形資産とは技術、人脈、顧客、ブランド、信用などです。農業なら農地、農具ごと。漁業なら漁船、漁具ごと引き継げます。民宿ならば建物、設備はもちろんのこと観光地という立地、許認可や権利ごと引き継げます。取引銀行、取引先、地域からの信用を引き継げるのも大きな魅力です。田舎特有の軋轢が生じることなく、後継者という立場を手に入れる事で地域間の人間関係をスムーズに構築できるでしょう。

判断するのが難しい場合や未経験の場合は、手始めに個人事業主や経営者の元で後継者候補として勉強することもできます。何年か働くことで技術と知識を身につけ、自身のアイデアを組み合わせてビジネスを展開していくことが出来るのです。尚、有形資産は有償、無償の場合があるので事前に確認が必要です。

起業と比べてリスクが低い

失敗のリスクを考えるとなかなか起業には踏み切れないものです。しかしゼロから作るのではなく、自分のやりたい事業と似た形のものを引き継いで運営していく継業ならば、事業の方向性だけでなく店舗や流通ルート、取引先、顧客などもろもろが最初から固まっているため、リスクを最小化、極めて低い起業生存率を高めることが出来ます。

また、地方であれば廃業による雇用の喪失で人口流出や活力低下に対し危機感を持っていますから、行政、商工会、創業支援センター、移住相談センターなどの関係団体が連携した十分なサポートも期待できます。

 

新たな視点で事業展開が出来る

中にはビジネスモデルが古く、時代に適用していないだけの事業もあります。アイデア次第で化ける事業があるかもしれません。高齢者が経営している中小企業は、古い業態を未だに引きずっている場合があります。どんぶり勘定で財務管理が出来ていない、昔ながらの付き合いから仲介業者が多すぎて、仕入れが高すぎるなど。継業を機にステークホルダーを整理したら解決なんてことも…

農業では、ブランド化やマーケティングなど小難しい事ではなく、JAから飲食店への直送に切り替えて収益増加、ECサイトを開設してBtoCで販売を開始する。温泉や民宿ならばHPを開設していない場合が多いので、まずはHP開設から…なんてこともあり得ます。当たり前が当たり前ではないことを自覚しましょう。斜陽産業も、アイデア次第では命を吹き替えすかもしれません。何をチャンスと見るか、何を資源と見るかは人それぞれです。地方にはみなさんが思っている以上にチャンスがあります。

また、継業はなにも一人で孤独に行う必要はありません。共同で行うことも可能です。別々のスキルを持った者同士が継業を行うことで新たなブランドに育て上げるのも楽しいことでしょう。友達と共同で民宿を経営することも可能なのです。

継業のデメリット

旧経営者との衝突

もちろんデメリットも存在します。デメリット、リスクとしては、経営方針の衝突があります。旧経営者の存在が厄介になる場合もあるのです。新経営者は、古い方針はある程度のベースとしつつも新しい方向性を打ち出すことがほとんどです。しかし、前経営者から自分の築いた信用や顧客に対してそれがマイナスだとみなされて注文をつけられるかもしれません。経営を交代したとはいえ、前経営者は株主であったり顧客・銀行等に顔が利くため隠然たる影響力を持っています。自分の方針だけを無理に通そうとすると、旧経営者が「そんなことのために継がせたわけじゃない」と反発し、トラブルになるケースもあります。

新旧の経営方針がぴったりと合っていれば素晴らしい制度ですが、前経営者とトラブルを起こすと事業を順調に進めていくことができない可能性があります。起業に比べて自由度は低くなることを自覚しましょう。

負の遺産

借金をどうするのかも継業の場合考えなくてはいけません。資産と借金のバランスをしっかり精査して判断しなくてはいけません。しかし、全ての借金を継業の際に肩代わりする必要はありません。会社分割や事業譲渡といった手法を使うことで、負債など不要な部分を切り外し、別会社として継ぐことも可能です。

相続トラブル

問題になりやすいのが前経営者の親族と新経営者の間に起こる相続のトラブルです。旧経営者が死亡した際には、新経営者に譲り渡した事業資産の扱い次第では遺産相続トラブルに発展してしまいます。事業を受け継いだとはいえ法律的には他人ですので、旧経営者の遺族からは感情的に見られることもあり、相続トラブルが複雑化してしまうケースもあるようです。

継業

トラブルを避け、円滑に継業を行うためには

円滑なコミュニケーションが継業を成功させるポイントと言えるでしょう。事業の方向性や資産がどういった扱いになるか事前にしっかり相談し、約束を得ることで前述のトラブルは防ぐことが出来ます。性格の不一致もトラブルの原因なので後継者になる前に相手がどんな人間性なのかを確認することも大切です。

継業の方法

探す方法としては、47都道府県に設置された事業引継ぎ支援センターがあります。専門家が、事業引継ぎに係る課題解決に向けた助言、情報提供及びマッチング支援を行っています。都道府県によっては、継業に関係する経費の補助や移住者である後継者の住居探しなどの支援がなされることもあります。例えば、和歌山県のわかやま移住者継業支援事業が代表的です。わかやま移住者継業支援事業では、後継者を求める経営者と継業をしたい移住者のマッチングの支援や、継業にかかる経費の補助が行われています。また、当サイトLOCAL TERASU『継業』でも取材形式で紹介しています。

その他、後継者育成に伴う助成金も使用できます。地域おこし協力隊次世代人材投資事業創業・第二創業促進事業など様々な支援制度を活用することも可能です。継業後も事業が軌道に乗るまでの数年間、事業を支援してくれる制度もあります。これらの支援制度は業種や、地域によって違うので事前に確認する必要があるでしょう。それぞれのメリット、デメリットをしっかりふまえた上で自分に合った継業のカタチを見つけてください。